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東京高等裁判所 平成4年(行ケ)15号 判決

大阪市北区梅田1丁目11番4-1000号

大阪駅前第4ビル

原告

大峰工業株式会社

代表者代表取締役

安川勝

原告代理人弁護士

中嶋邦明

弁理士

鎌田文二

東尾正博

鳥居和久

大阪市中央区南本町1丁目3番14号

被告

中央機械工業株式会社

代表者代表取締役

〓山芳和

被告代理人弁護士

牛田利治

白波瀬文夫

弁理士

犬飼新平

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第1  当事者が求めた裁判

1  原告

「特許庁が平成2年審判第15053号事件について平成3年12月5日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決

2  被告

主文同旨の判決

第2  請求の原因

1  特許庁における手続の経緯

原告は、名称を「チップコンベヤー」とする特許第902501号の発明(昭和50年5月28日出願、昭和52年7月8日出願公告、昭和53年3月30日設定登録、以下「本件発明」という。)の特許権者であるところ、被告は、平成2年8月13日、原告を被請求人として特許庁に対し、本件特許につき無効審判の請求をした。

特許庁は、これを、平成2年審判15053号事件として審理し、平成3年12月5日、本件特許を無効とするとの審決をなした。

2  本件発明の要旨

チエンの駆動によりチップを掻き出す多数個のスクレーパーを擺動自在に関着したエンドレスのチエンを案内する懸垂レールを工作機械の下部に設けた所望形状を成すチップ送出樋の側壁に固定し、該送出樋の底部適所にチップ排出口を設けると共に必要に応じ送出樋の上部適所に覆蓋を設け、チエン及びスクレーパーが絶えずチップを押送する方向に進行してチエンの戻りの行程を省略した事を特徴とするチップコンベヤー(別紙図面1参照)

3  審決の理由の要点

審決の理由の要点は別紙平成2年審判15053号審決写理由欄記載のとおりである。

上記記載のうち、甲第2号証(特開昭50-58782号公報)を「引用例」といい、甲第2号証に記載された発明を「引用発明」という(別紙図面2参照)。

4  取消事由

(1)  別紙平成2年審判第15053号審決写理由のうち、引用例に記載された機函1が本件発明のチップ送出樋に相当し(5頁18行)、この点が本件発明と引用発明との一致点であること(7頁1行)及び当審の判断の項(8頁6行ないし10頁14行)は争い、その余は認める。

(2)  引用発明の認定の誤りによる一致点の誤認(取消事由1)

審決は、引用発明において機函1として示されているものをチップ送出樋と認定した。しかしながら、チップ送出樋とは、チップを送出するための通路のことであるから、引用発明では、機函1内に列設された通路4がそれに当たるものであって、機函1を本件発明のチップ送出樋に相当するとした審決の認定は誤りである。

(3)  相違点(1)についての判断の誤り(取消事由2)

本件発明の構成において、チップ送出樋の側壁を利用して懸吊レールを支持するということは、チップコンベヤーの全体の高さを低くするという目的を達成するために採用した重要な構成である。それにもかかわらず、審決は、相違点(1)についての判断において、上記構成と上記目的との関係を看過し、上記構成は当業者であればごく自然に着想し得ることであると誤って判断した。

懸吊レールを、「チップ送出樋の側壁に固定」する(本件発明の構成)か、あるいは「チップ送出樋の上部に横架した梁材に固定」する(引用発明の構成)かは、チップコンベヤーにとって顕著な効果上の差異が生じる重要な構成上の相違点である。すなわち、(a)懸吊レールをチップ送出樋の側壁の上部に横架した梁材に固定した場合、梁材の分だけ嵩高くなり、チップコンベヤーを嵩低くすることはできない。また、(b)工作機械から発生する切削屑(チップ)は螺旋状となったもの等、嵩高いものも多く、このような切削屑が多量にチップ排出樋に投入されると、切削肩がチップ排出樋内で盛り上がった状態でスクレーパーによって押送されるため、切削屑がチップ送出樋を横切る梁材に引っ掛かり、引っ掛かった切削屑にさらに後方の切削屑が引っ掛かって切削屑が絡まり、スクレーパーによる押送が困難になることがある。これに対し、懸吊レールを、チップ送出樋の側壁に固定すれば、チップコンベヤーの全体の高さを低く抑えることができるし、上記のような切削屑の引っ掛かりも防止することができるものである。かかる重要な構成上の相違である相違点(1)について、審決は当業者がチップ送出樋の構造に応じて随意に採択し得る設計上の事項にすぎないと誤って判断した。

乙第3号証記載のものは、本件発明のように、チップ送出樋がほぼ水平面上を循環するように形成された水平面循環式のものではなく、立体式のものであるから、水平面循環式のものにおいてチップ送出樋の側壁に懸吊レールを支持することを周知の技術とすることはできない。

本件発明は、水平面循環式のものにおいてチップ送出樋の側壁に懸吊レールを支持するという構成を採用することによって、引用発明の有する上記(a)及び(b)の構造上の欠陥をなくし、引用発明では奏し得ない顕著な作用を奏するものである。

(4)  相違点(2)についての判断の誤り(取消事由3)

本件発明に係るチップコンベヤーは同質のチップの排出に係るものであり、その構成の「戻りの行程を省略」とは、チップを送出しない無駄な行程をなくすこと、すなわち、チップを連続して絶えず押送するようにすることである。そして、チップを絶えず押送するようにするためには、スクレーパーを循環させるだけでなく、その前提としてチップ送出樋が循環していなければならない。

ところが、引用発明の基本思想は、鉄、鋳物、真鍮等の異質のチップを混入させずに押送することであり、そのために、スクレーパーは循環させても、通路は循環しないように、独立した通路を設け、独立した通路のそれぞれに投入口と排出口を設けることであって、引用発明には、本件発明におけるチップを絶えず押送する、すなわち戻りの行程を省略するという思想はない。

引用発明においては、別紙図面2第1図が示すように、4本の独立した通路のそれぞれに投入口と排出口を設けてあり、4本の通路は循環しておらず、スクレーパーの回動部をもって通路は不連続となっている。ある通路と平行列設する他の通路とが同一のスクレーパーを共用する場合でも、ある通路で押送されたチップはその通路限りで排出されるのであり、スクレーパーが循環して他の通路に移ると異質のチップを押送しなければならないので、通路は不連続でなければならない。もし通路が連続しておれば、チップ同士が混入し、異質のチップを混入させずに押送するという引用発明の目的を達成することができない。

以上のように、本件発明は、チップ送出樋すなわち通路が連続していることが技術的大前提であるのに対し、引用発明は、スクレーパーが連続しても、通路が不連続になっていることが技術的大前提であって、両者の技術的思想には根本的な相違がある。

したがって、相違点(2)について、戻りの行程をなくすという点において、本件発明と引用発明とが軌を一にするとした審決の判断は誤りである。

さらに、審決は、引用発明は、互いに異質のチップを送出するために、本件発明と格別な構造上の差異を設けていないと判断したが、上記のとおり、引用発明では、通路すなわちチップ送出樋を不連続に設けることが、互いに異質のチップを送出するために必要な構造であるのに対し、本件発明では、チップ送出樋を連続するように設けるものであるから、両者の構造に根本的な相違がある。

しかるに、上記(2)で述べた誤認の結果、審決は、引用発明におけるチップ送出樋を通路4として把えずに、機函1として把え、通路4が機函1に設けられたそれぞれ独立した通路であることを看過し、引用発明には、通路を循環させるという思想がないことを看過した結果、本件発明と引用発明との構造上の根本的な差異を看過し、相違点(2)に係る本件発明の構成には、格別の創意はないと誤って判断した。

第3  請求の原因に対する認否及び主張

1  請求の原因1ないし3は認め、同4は争う。

2  本件審決の認定判断は正当であり、原告ら主張の違法はない。(本件発明に係るチップコンベヤーが水平面循環式のものであり、同質のチップを対象とするものであることは認める。)

(1)  取消事由1について

本件発明におけるチップ送出樋とは、本件発明の出願公告公報(甲第3号証)(以下「本件公報」という。)添付図面第1図(別紙図面1第1図)に1として示されているとおり、チップが押送される樋状の部材全体を指すものであり、引用発明において、このチップ送出樋1に対応するものは、引用例(甲第2号証)添付図面第1図(別紙図面2第1図)で示される機函1である。

また、引用発明における通路4は、機函1内の一部を称しているものであり、樋状部材全体を指すものではない。

(2)  取消事由2について

懸吊レールはチエンをチップ送出樋に沿って案内するためのものであって、これをチップ送出樋に沿って形成されたチップ送出樋の側壁に支持することは、当業者であれば極く自然に想到し得ることである。

さらに、付言すれば、チップ送出樋の側壁に懸吊レールを支持することは実開昭49-27884号公報(乙第3号証)に示されているように、周知の技術である。

原告主張の(a)については、引用例の添付図面第2図に示されているように、梁材10は機函1の側壁の上端部より上側にはみ出さないよう取り付けられている。したがって、梁材を横架することにより梁材の分だけ嵩高くなっていない。また、樋(機函1)の側壁の高さ(深さ)は基本的にチップ送出量で定められるから、側壁にレールを固定してもいくらでも低くできることにはならない。そして、強い材質の梁材を使えば薄くでき、梁材の影響は小さくできる。

本件発明の効果の一である機体を嵩低く形設できるとの点は、従来技術であるチップ送出樋が立体形式のものと対比してチップ送出樋をほぼ水平面上を循環させる構成としたことにより得られるものである(本件公報((甲第2号証))1欄32行ないし2欄4行、同欄30行ないし33行)。 この観点からみると、引用発明と本件発明は共にチップ送出樋が立体式でなく、ほぼ水平循環式であって、これにより嵩低く形設できるという同一の効果を得ている。したがって、引用発明と本件発明とで、懸吊レールの支持する場所が相違しても、嵩低く形設できるという両発明の特有の効果に本質的な差異はない。

次に、原告主張の(b)については、引用発明における梁材10の形状や取付位置は種々のものが含まれるところ、梁材の表面形状を平滑にしたり薄くする等の設計上の工夫により切削屑の引っ掛かりや絡まりを防止することができるから、引用発明においても、上記(b)の点を回避できる。本件発明において、懸吊レールの取付位置を、チップ送出樋の側壁としたことは、格別の意味を持たない。

また、本件発明の特有の効果は嵩低く形設する点と戻り行程の省略し能率化した点にあり、切削屑の引っ掛かりや絡まり等の処理に関する点は、本件発明の特有の効果ではないから、懸吊レールの支持場所の相違は本件発明と引用発明の特有の効果に本質的な差異を生ぜしめるものではない。

そもそも、原告主張の(a)及び(b)の点は、本件発明の上記の特有の効果と関係なく、明細書にも記載されていないから、この点についての原告の主張は正当でない。

(3)  取消事由3について

本件発明は、従来のチップ送出樋が立体形式であるチップコンベヤーに改良を加え、チップ送出樋がほぼ水平面上を循環するようにしたもので、これにより、従来の立体形式のチップコンベヤーにおける戻り行程を省略したものである。このことは、本件公報(甲第3号証)の1欄32行ないし2欄4行、同2欄5行ないし8行、同欄27行ないし33行の記載から明らかである。

これに対して、引用発明もまたチップ送出樋が水平面上を循環するチップコンベヤーであり、循環した通路4上を、スクレーパー21が循環し、チップを押送し、この構成により、立体形式のものにおいてみられる戻り行程を省略しているから、この構成に関する両発明の技術的思想は同一である。

なお、チップ送出樋を水平面上に循環して、形成することは、特願昭42-18544号公報(乙第2号証)においてもみられるように、周知の技術である。

原告は、引用発明においては、別紙図面2に示されているように、4本の独立した通路のそれぞれに投入口と排出口を設けてあり、4本の通路は循環しておらず、スクレーパーの回動部をもって通路は不連続となっていると主張するが、正しくない。すなわち、引用例の添付図面第1図(別紙図面2第1図)において、チップ落下口6の回動部側の線が描かれていること、上記の特許請求の範囲でチップ落下口6は上下位適所に設けられることとされていること、仮に、スクレーパー回動部に底板がないのであれば通路底板より下方にスクレーパーが降下し、隣の通路に入るとき、その底板の端面に衝突して入ることができない。すなわち、前記のように各スクレーパー21は各通路4の底板上を摺動し、また、引用例(甲第2号証)2頁左下13行ないし18行に「スクレーパー21の支持杆22は…軸20に回動自在…強い抵抗を受ければ、そのチップ塊上を乗り越え進行し」旨記載されている。しかも、同図面第1、2図のように、スクレーパー21の支持杆22の案内にもなっている仕切り凸部3がスクレーパー回動部には設けられていない。したがって、スクレーパーの回動部に底板がないなら、その孔から下方にスクレーパーが下がってしまい、さらに進んで次の通路に入るときに通路底の端面に衝突して入れない等の理由により、引用発明の回動部における通路は存在することは明らかである。

引用発明において、各通路の適所に設けたチップ投入口5からある種のチップを投入し、これを適所に設けたチップ排出口6から排出し、その後また異種のチップを投入できるというに止まり、異質のチップを混入させずに押送することが基本思想となっているものではない。引用発明において、両行程に同質のチップを押送することも可能である。引用発明の回動部に底板が存在しても、各通路の適所に設けたチップ投入口5から投入されたチップは、これを適所に設けたチップ排出口6から排出されるから、異質のチップ同士が混入することはない。したがって、引用発明には、従来技術であるチップ送出樋を立体形式としたチップコンベヤーの上段における戻り行程を省略している点で本件発明と差異はない。

仮に、引用発明の回動部にチップ送出樋の底板が存在せず、各通路が断絶しているとしても、このことの故に「戻り行程の省略」がないことに帰するものではなく、通路の連続・不連続は本質的な問題ではない。なんとなれば、引用発明において、水平面上に形成されたチップ送出樋上をスクレーパーが循環し、対向する両側のチップ送出樋上においてチップを押送し、立体形式における戻り行程は省略されているからである。

したがって、引用発明において、通路が連続循環していないとの原告の主張は正当でなく、また、根本的に通路の連続不連続は本質的な問題ではないので、原告のこの点についての主張は正当でない。

(4)  引用発明は、本件発明の構成を全て備えており、かつ、機体を嵩低く形成し得ているとの効果及び戻りの行程を省略しているため能率的であるとの効果を奏しているから、本件発明と同一であり、新規性を欠如しているとみるべきであるが、同一発明でないとすれば、進歩性がないと判断した審決に誤りはない。

第4  証拠関係

証拠関係は本件記録中の書証目録記載のとおりである。

理由

1  請求の原因1ないし3並びに本件発明のチップ送出樋に相当する部材が機函1として示されているとの点を除き審決摘示に係る引用例の記載内容並びに本件発明と引用発明の一致点(但し、後者の機函1が前者のチップ送出樋に相当するとの点を除く。)及び相違点は当事者間に争いがない。

2  原告主張の審決の取消事由に対する判断

(1)  本件発明の概要

〈1〉  本件発明の技術的課題

成立に争いのない甲第3号証(本件公報)によれば、本件発明は工作機械主として立旋盤から生ずる同質のチップを搬出するチップコンベヤー(本件発明に係るチップコンベヤーが同質のチップを対象とするものであることは当事者間に争いがない。)に係るものであること、従来公知の立旋盤に附設されるチップコンベヤーはスクレーパーを関着するエンドレスのチエンが上下2段に架設されたレールにより案内され循環する立体形式であって、各スクレーパーが下位のレール内を一方の基点から他方の基点まで往動し、他方の基点で上位のレールへ移行して一方の基点まで復動し、一方の基点で下位のレールへ移行し循環する事を特徴としており、故にチエンの戻りの行程、すなわち上記復動の行程ではチップを掻き出さず又コンベヤーの機体が嵩高くチエンも長大となることが欠点とされていたこと、本件発明はこのような欠点を除去することを課題として、その特許請求の範囲記載の構成を採択したもので、これにより本件発明に係るチップコンベヤーは、いわゆる水平循環式装置のものとして、工作機械の下部にコンパクトに定設され、エンドレスのチエンに関着したスクレーパーを絶えずチップを掻き出す方向に所望形状を成すチップの送出樋内において循環させてチエンの戻りの行程を省略した事を特徴とするものであるでことが認められる(本件発明に係るチップコンベヤーが水平循環式のものであることは当事者間に争いのないところである。)。

〈2〉  本件発明に係るチップコンベヤーが審決摘示(別紙審決写3頁7行ないし4頁3行)の効果を奏することは当事者間に争いがない。

(2)  引用発明の概要

前記のとおり、引用例に審決摘示の事項(引用発明)が記載されていることは当事者間に争いがなく(但し、引用例の機函1が本件発明のチップ送出樋に相当するとの点を除く。)、この事実と成立に争いがない甲第2号証(引用例)によれば、従来のチップコンベヤーの無端チエン(エンドレスチエン)は垂直方向に循環しているため、装置全体が嵩高く、これを工作機械の下位に設置するにはピットを掘削しなければならず、また、ピット内に各種のチップが混入したままで押送されるため、これを選別して排出することが困難であった等の欠点を有していたこと、引用発明はかかる欠点を除去することを目的とする、チップの押送ラインを横設した水平式チップコンベヤーに関するもので、これにより機函1が嵩低く形成されるため、工作機械の下位にピットを掘削したり支柱を立設することなく簡単に定置することができ、また、その取り外しも容易となりさらに後記認定の列設された各通路4にチップ投入口5と落下口6を設け、鉄、鋳物、真鍮等の異質のチップを別々の投入口に投入してスクレーパーによりこれを押送し、各投入口に対応する落下口より落下させることにより、排出される異質のチップの混入を防止する等の効果を奏するものであることが認められる。

(3)  取消事由1について

本件発明におけるチップ送出樋とは、チップを送出する樋状又は上部適所に覆蓋のある樋状の通路全体を指すものであることは、その特許請求の範囲の記載自体から理解し得るところであるが、さらに、前記特許請求の範囲の記載によれば、上記チップ送出樋の側壁にスクレーパーを擺動自在に関着したエンドレスチエンを案内する懸吊レールが固定されており、また、その底部適所にチップ排出口が設けられ、スクレーパーが循環進行(この点は特許請求の範囲に明記されていないが、スクレーパーがエンドレスチエンに関着されている以上当然のことである。)することが認められる。そして、前掲甲第3号証の本件公報の発明の詳細な説明の項及び添付の図面(別紙図面1)には、上記の事項及びチップ送出樋内に設置されたエンドレスチエンを駆動するスプロケット7を備えた実施例と適所にチップ落し口(投入口)10を設けた覆蓋のあるチップ送出樋の実施例が示されている(スプロケットはエンドレスチエンを用いる以上技術的に当然必要とされる部材であり、また、チップ送出樋に覆蓋を設ければ、その適所にチップ投入口を備えることも当然の技術的要請であり、本件発明のかかることを技術的前提としているものと解される。)。これに対して、引用発明の構成を具体的に検討すると、前記当事者間に争いのない引用発明の構成及び前掲甲第2号証(引用例)によれば、引用発明では、機函1の中央に隔壁2が立設され2室に区画されるとともに各室の底部中央部に山形状の仕切り凸部3、3が突設されチップが押送される4本の通路4…が列設され、機函1の上面の適所にチップ投入口5…底板の適所にチップ落下口6…が穿設され、機函1内部の両端部に横方向に回動する駆動スプロケット7と従動スプロケット8が軸支され、駆動スプロケット7と従動スプロケット8間にチップを掻き出す多数個のスクレーパーを擺動自在に関着した無端チエン(エンドレスチエン)9が掛架され、機函1の側壁上部に横架した多数本の梁材10の下面にエンドレスチエンを案内する懸吊レール12が固着され、各スクレーパー21は各通路4の底板上を摺動して機函1内を循環するものであることが認められる。

この事実によれば、引用発明の機函1は覆蓋を備え(引用発明ではチップ投入口が設けられる以上、覆蓋があることは技術的前提である。)、本件発明の覆蓋を備えたチップ送出樋同様エンドレスチエン、スクレーパー、スプロケット及び懸吊レールを収容し、各通路の底板にチップ落下口、上面にチップ投入口を設けた部材であり、機函1内をエンドレスチエンに関着されたスクレーパーが循環進行するものであるということができる。なお、スクレーパーの循環進行に関し、スクレーパーがエンドレスチエンに関着されている以上回動部に底板が形成されることは必ずしも必要ではない。しかし、上記機函1では通常の形態として、駆動スプロケット及び従動スプロケットの設けられている回動部も通路の底板と連続し、回動部にも底板が形成されているものと認めるのが相当である。もし、回動部が通路の底板と連続せず、底板が欠けた状態を想定すると、通路の底板上を摺動したスクレーパーが回動部に至ると、下縁が何物にも支えられることなく不安定な状態でスプロケットの周囲を回動した後、スクレーパーの大きさ、重さによっては反対側の通路に端面を衝突させて乗り上がらなければその通路上を走行することができないことになる。引用発明に係るチップコンベヤーがかような不自然な形態を予定しているとは考えられない。原告が戻りの行程に関して主張するように通路底面と回動部が不連続でなければ、引用発明が意図する異質のチップの混入防止という目的が達せられないものと認めることはできない。いずれにせよ、引用発明の機函1は、全体としてスクレーパーの循環通路を形成しているものと認められる。そうであれば、本件発明のチップ送出樋は引用発明の機函1に相当するものということができる。

原告は、本件発明のチップ送出樋とはチップを送出するための通路のことで、引用発明では機函1内に列設された通路4がこれに相当すると主張するが、上記認定によれば、本件発明のチップ送出樋は樋状の通路(覆蓋を備えたものも含む)を形成する部材全体を指し、内部にエンドレスチエン、スクレーパー、スプロケット及び懸吊レールを供えスクレーパーが循環進行するものであるところ、前掲甲第2号証によれば、引用発明の通路4は機函1内の隔壁2及び仕切り凸部3により区画された個々の部分を指すにすぎないものと認められる。確かに、引用発明において、チップ投入口及び排出口を備えた通路4自体は覆蓋のある箱状をなし、かつ横架された梁材10下面にエンドレスチエン(無端チエン9)を案内する懸吊レール12が固着されてはいるが、駆動スプロケット7と従動スプロケット8は機函1に一個ずつ両端に設けられているのみで、各通路には備えられておらず、個々の通路としてみる限り、スクレーパ一を関着したチエンは一方向にのみ走行しているに止まり同じ通路内をスクレーパーは循環進行していないが、機函1全体ではチエンはエンドレスの状態で走行し、これに関着されたスクレーパー21が通路と、通常の構造として想定される回動部と通路4が連続して形成する底板上を循環進行しているものと認められる。したがって、引用発明の通路4は本件発明のチップ送出樋に相当するものと認めることはできず、引用発明においてこれに相当するものは審決の認定どおり機函1であるというべきである。この点に関する原告の上記主張は採用できない。また、引用発明の回動部に底板があるとしても、同所ではスクレーパーによるチップの押送はなく通路として形成されていない点で本件発明とは異なるが、後記のように、この点の相違は対象とするチップに由来するものであるから、この相違点の故に、本件発明のチップ送出樋が引用発明の機函1に相当することが否定されるものではない。

よって、取消事由1は理由がない。

(4)  取消事由2について

〈1〉  成立に争いのない乙第2号証(特公昭42-18544号公報)によれば、環状コンベヤーに関する発明において、水平環状に物体を押送する環状コンベヤーの樋状の通路である環状トラフ2の一側面にレール12を設け、送入された物質を押して進行させ押送するフライト板9を設けた環状体6の一側に上記レールと接触可能であるローラー7を設けたものが、成立に争いのない乙第3号証(実開昭49-27884号公報)によれば、スクレーパーコンベヤーに関する実用新案において、導溝2の側面にガイドレール1を固定したものが、それぞれ開示されており、環状トラフ2及び導溝2がいずれも本件発明の樋(前掲乙第3号証添付図面第1図には導溝2の一部のみが示されており、その形状は明らかでないが、その溝という名称から樋状であると認められる。)に、上記レール12及びガイドレール1はいずれも本件発明の懸吊レールにそれぞれ相当するものと認められるから、コンベヤーの「樋状の通路の側壁に懸吊レールを固定すること」が、本件発明の出願(昭和50年5月28日)前周知であったことが認められる。

原告は前掲乙第3号証の装置は立体循環式のものであることを理由に、水平循環式のチップコンベヤーの側壁に懸吊レールを固定する技術の周知性を争うが、上記装置が立体式のものであるとしても、樋状の通路の側壁に固定された懸吊レールを示していることに変わりはないのであるから、コンベヤーの配列方法に相違はあっても、そのことの故に上記周知性が否定されるものではない。

前掲甲第2号証によれば、引用発明において、通路を複数設け異質のチップを選別排出する関係から、スクレーパーをチエンの両側に左右対称に設ける必要上、懸吊レールを通路の中央に設けたもので、そのために梁材10が必要となったものと認められるところ、同質のチップを対象とする本件発明のように片側にのみスクレーパーを設けようとする場合、一般には懸吊レールは中央から送出樋の側壁に偏った位置に設けるのが通常であり、懸吊レールを固定するための梁材を設ける必要性はなくなるものと解される。

その場合、コンベヤーの「樋状の通路の側壁に懸吊レールを固定すること」という周知の技術手段を採用することは当業者であれば、当然考え得ることであると認められる。

〈2〉  原告は、上部に梁材を横架したことによる引用発明の有する構造上の欠陥(a)及び(b)(請求の原因4(3))を、本件発明が「送出樋の側壁に懸吊レールを固定する」構成により、解決・回避できる旨主張する。かかる効果については、本件公報に明示的には記載されていないが、その点はしばらく措き、原告の上記主張について検討する。

(a)について

チップ送出樋の側壁の高さは、基本的にはチップ送出量で定められるものであり、側壁にレールを固定したからといって、いくらでも低くできることにはならないのであり、本件発明において、特許請求の範囲の記載では、懸吊レールを側壁に固定する位置を特定していないと認められるから、梁材を設けないからといって一義的にコンベヤーの嵩高さが低くなるとは認められず、また、一般にコンベヤーの機体の嵩高さはスクレーパーの支持杆の長さやチエン本体及びスクレーパーの取付方法にも依存しており、設計変更により改良できるものである。

しかも、上記(1)で認定した本件発明の技術的課題から推察するに、コンベヤーの機体を嵩低くすることは、従来のチップ送出樋が立体式のものと対比して、チップ送出樋をほぼ水平面上を循環させることによって達成せんとするものであり、梁材の省略によりコンベヤーの機体を嵩低くすることがある程度可能であるとしても、それは、副次的な効果にすぎないものである。

(b)について

上記〈1〉で判示したとおり、本件発明のように片側にのみスクレーパーを設ける場合、一般には懸吊レールは中央から送出樋の側壁に偏った位置に設けるものであり、懸吊レールを固定するための梁材を設ける必要性はなくなるものと解されるところ、梁材をなくした場合、梁材によるチップの引っ掛かりが防止できるであろうことは容易に予測できるものと解されるのであって、かかる効果は、梁材の省略による副次的な効果にすぎないものである。

〈3〉  よって、取消事由2は理由がない。

(5)  取消事由3について

〈1〉  前記のとおり、審決摘示に係る本件発明と引用発明との相違点2の構成は当事者間に争いがない。そこで先ず本件発明における「戻りの行程の省略」の技術的意義について検討する。

本件発明の「チエン及びスクレーパーが絶えずチップを押送する方向に進行してチエンの戻りの行程を省略した」構成における「戻りの行程の省略」の意義について、原告は、チップを送出しない無駄な行程をなくすこと、すなわち、チップを連続して絶えず押送するようにすることであると主張し、本件公報の詳細な説明の「チエン4及びスクレーパー6は絶えず押送する方向(矢印方向)に循環し従って戻りの行程が不用で極めて効率的である。」旨の記載(前掲甲第3号証1頁2欄27行ないし30行)からみると、「戻りの行程の省略」は原告主張のように解されないではない。しかし、同じように本件発明の特許請求の範囲には「該送出樋の底部適所にチップ排出口を設けると共に必要に応じ送出樋の上部適所に覆蓋を設け」と記載されており、これによると、覆蓋を設けない場合は、チップの落し口(引用発明における投入口5)が送出樋の上面開放部の全面になるものと解され、原告主張のように、「チップを絶えず押送」することになる。これに対して、覆蓋を設けた場合、チップの排出口については、覆蓋を設けない場合と同様に「送出樋の底部適所」に設けられるが、チップ落し口をどこに設けるかは、特許請求の範囲からは明確ではない。しかし、詳細な説明の「9は樋1の上面に必要に応じ設けた覆蓋であって樋1の全面又は所望箇所に設け、覆蓋9の上面を通行面とするもので、覆蓋9の適所にチップ落し口10を設ける。」旨の記載(同号証1頁2欄17行ないし20行)によれば、チップ落し口の位置は覆蓋の適所に設けられるものと認められる。かかる場合、チップ送出樋の底部適所に設けられたチップ排出口と同じく覆蓋の適所に設けられたチップ落し口の位置次第では、チップを送出しない無駄な行程が存在し得るものである。

さらに、本件発明の特許請求の範囲中の「チエン及びスクレーパーが絶えずチップを押送する方向に進行して」との記載及び前掲甲第3号証(本件公報)の発明の詳細な説明の項の「スクレーパーを絶えずチップを掻き出す方向に…循環させて…」(1頁1欄28行ないし30行)、「チエン4及びスクレーパー6はチップを絶えず押送する方向(矢印方向)に循環し…」(同号証1頁2欄27行ないし29行)の各記載にみられるように、「チップを絶えず押送する」とはスクレーパーの進行する方向性(循環していること)及びその状態(チップを絶えず押送できる状態で床面上を連続進行していること)を明示しているに止まり、原告主張のようにチップを送出しない無駄な行程がないようにチップを連続して絶えず押送する意味にだけに解することはできない。そして、上記認定のように、チップ排出口とチップ落し口の位置次第では、チップを送出しない無駄な行程が存在し得るものであるから、本件発明の構成要件の一部をなす「戻りの行程の省略」とは、上記(1)で判示した本件発明の技術的課題からみると、従来のチップコンベヤーでは、各スクレーパーが下位のレール内を一方の基点から他方の基点まで往動してチップを掻き出し、他方の基点で上位のレールに移行して一方の基点まで復動する行程(戻りの行程)ではチップを掻き出さない、すなわち、スクレーパーが戻りの行程においてはチップの押送に何ら関与していなかったが、本件発明では、スクレーパーが連続した床面上をチップを絶えず押送できる状態で循環進行することにより、従来のチップコンベヤーのスクレーパーがチップの押送に何ら関与することなく他方の基点から一方の基点まで復動する戻りの行程をなくし、スクレーパーが、どの行程においても、絶えず、チップの押送に関与できるようにしたことを意味するものと認められる。いいかえれば、全行程常にチップを押送していることは本件発明の構成要件ではなく、どの行程も必要に応じ押送が可能であれば足りるものと認めるのが相当である。

〈2〉  審決が相違点2として本件発明と相違するものと摘示した「チエンが駆動スプロケットと従動スプロケットとに無端状に巻き掛けられ、チエンが駆動スプロケットから従動スプロケットへ向けて進行する行程と従動スプロケットから駆動スプロケットへ向けて進行する行程とが、同時に互いに異質のチップを送出することができるようにしている」引用発明の構成において、一方の行程からみれば他方の行程はチエンの戻りの行程となっていることは、当事者間に争いがない(逆に、他方の行程からみれば一方の行程はチエンの戻りの行程となっている関係にある。)。そして、引用発明は、前記のとおり、エンドレスチエンが垂直方向に循環するチップコンベヤーの欠点を除去するため、エンドレスチエンを横設して横方向に循環させたものであるから、従来装置においてチップの押送をすることができなかった戻りの行程においてもチップの押送を可能にしたものということができる。確かに、引用発明は、直接的には前記のように多数の工作機械から生ずる異質のチップを混入することなく排出することを目的としているが、それは、互いに戻りの行程の関係にある複数の通路を別々に異質のチップのために利用することにより、容易に実現し得たのであって、そのことは、本件発明が課題とする戻りの行程の省略を当然の技術的前提としていることを意味するものと認めることができるのである。

もっとも、引用発明においては、異質のチップの混入を防ぐため、駆動スプロケット及び従動スプロケットが設置された機函両端の回動部を除いた部分に投入口、落下口を備えた複数の通路が列設され、通路部分においてチップの投入、排出を行い、回動部でスクレーパーによりチップを押送することは予定していないものと認められるが、チップを押送している通路部分についてみれば、相互に戻りの行程を省略し押送に利用しているものということができる。そして、前掲甲第2号証の引用例によれば、引用発明において投入口と落下口の位置関係によっては、スクレーパーが常に通路の全行程においてチップを押送している場合もあり、また、一部の行程において押送している場合もあるが、絶えず、通路のどの行程においてもチップの押送に関与できるものであることは、本件発明と変わりはない。

このように、引用発明が垂直式チップコンベヤーを水平式に変え、戻りの行程の省略を当然の技術的前提とし、かつ現実に戻りの行程を押送に利用可能な状態としている以上、引用発明に戻りの行程の省略についての思想の開示があるものと認めて差し支えない。

そして、引用発明が異質のチップの排出に際し混入防止を直接の目的としているといっても、引用発明に係るチップコンベヤーの構造に照らし、これを本件発明が対象とする同質のチップの投入、排出に用いることが可能であることは当業者ならずとも明らかであり、引用発明がかかる用法を排除しているものと認めるに足りる証拠はない。さらに、同質のチップの投入、排出について、引用発明に係るチップコンベヤーにおいて、全行程においてエンドレスチエンに関着しているスクレーパーによるチップの押送を可能なものと変更するため、回動部の底板をもチップの通路として形成し、かつ複数の通路を連続した全体として一つの通路とすることに気付くことは当業者にとってさして困難なこととは認められない(回動部に底板が形成されていないとしても、この点の判断は変わるところはない。)。

原告は、本件発明が通路が連続していることを技術的前提とし、引用発明が通路が連続していないことを技術的前提としており、この点に両者の技術的思想に相違がある旨主張する。確かに、両者は通路の連続性の点において相違はしているが、両者のチップコンベヤーは従来の垂直式のものを水平式に改め、その結果スクレーパーを関着するエンドレスチエンを横方向にした点において共通しており、エンドレスチエンを横方向に設置する以上、当然戻りの行程は省略されこの行程をチップの押送に利用する点においても共通しており、ただその利用する部分が原告主張のように通路の連続、不連続という形で相違しているにすぎない。その相違は、本件発明が専ら同質のチップを対象とするのに対し、引用発明が異質のチップをも対象とする点に由来するものであるが、通路を不連続とする引用発明においても、同質のチップを対象とすることを排除するものでないことは既に述べたとおりである。そして、同質のチップの排出に関し、戻りの行程を利用していることに変わりはなく、引用発明の回動部を通路とすることを着想することに困難性がないことは既に述べたとおりである。したがって、通路の連続性の相違を理由に本件発明の戻りの行程の利用の点に進歩性を認めることはできず、この点に関する原告の上記主張は理由がない。

審決が相違点2の構成について、「(引用発明においいて)一方の行程がチップを送出している間は、他方の行程は一方の行程が送出するチップとは異質のチップを送出することにより、チップを送出することのない無駄な戻り行程を無くし、そうすることによってチエンおよびスクレーパーを効率良く進行させるという点では、本件発明と軌を一にするものである。」としたうえで、「(この両行程との間に)互いに異質のチップを送出するための構造上の格別の差異があるというものではないから、両行程において共に同質のチップを送出することも構造上は可能であって、当業者であれば、この点に着眼することに格別の困難が伴うとは言い難い」として、本件発明の戻りの行程の省略に格別の意義を認めなかったことは結論において正当である。

〈3〉  よって、取消事由3は理由がない。

(6)  以上のとおりであるから、本件発明は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとする審決の認定判断は正当であって、審決には原告主張の違法はない。

3  よって、原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条の各規定を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 松野嘉貞 裁判官 濵崎浩一 裁判官 押切瞳)

別紙図面1

〈省略〉

別紙図面2

〈省略〉

平成2年審判第15053号

審決

大阪市中央区南本町1丁目3番14号

請求人 中央機械工業 株式会社

大阪府大阪市北区西天満4丁目8番2号 北ビル本館4階

代理人弁護士 牛田利治

大阪市北区西天満4丁目8番2号 北ビル本館4階

代理人弁護士 白波瀬文夫

大阪市北区西天満4丁目8番2号 北ビル本館4階

代理人弁護士 内藤早苗

大阪府大阪市西区京町堀1丁目4番9号 京町橋八千代ビル8階E号室 犬飼特許事務所

代理人弁理士 犬飼新平

大阪市北区梅田1丁目11番4-1000号 大阪駅前第4ビル

被請求人 大峰工業 株式会社

大阪府大阪市中央区日本橋1丁目18番12号 鎌田特許事務所

代理人弁理士 鎌田文二

大阪府大阪市中央区日本橋1丁目18番12号 鎌田特許事務所

代理人弁理士 東尾正博

大阪府大阪市中央区日本橋1丁目18番12号 鎌田特許事務所

代理人弁理士 鳥居和久

上記当事者間の特許第 902501号発明「チップコンベヤー」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。

結論

特許第 902501号発明の特許を無効とする。

審判費用は、被請求人の負担とする。

理由

〔本件特許に係る出願の経緯およびその発明の要旨〕

本件特許第902501号の発明については、昭和50年5月28日に特許出願をされ、昭和52年7月8日に出願公告をされた後、昭和53年3月30日に特許権の設定の登録がされたものであって、明細書および図面の記載から見て、その発明の目的は、工作機械から生じるチップを搬出するチップコンベヤーにおいて、「チェンの戻りの行程ではチップを掻き出さず又コンベヤーの機体が嵩高くチェンも長大となる。」(明細書第2頁第7行ないし第9行)という従来のチップコンベヤーの欠点を除去することであって、特許請求の範囲に記載されたとおりの以下の事項を、その発明の構成に欠くことができない事項としているものである。

「チエンの駆動によりチツプを掻き出す多数個のスクレーパーを擺動目在に関着したエンドレスのチエンを案内する懸吊レールを工作機械の下部に設けた所望形状を成すチップ送出樋の側壁に固定し、該送出樋の底部適所にチツプ排出口を設けると共に必要に応じ送出樋の上部適所に覆蓋を設け、チエン及びスクレーパーが絶えずチツプを押送する方向に進行してチエンの戻りの行程を省略した事を特徴とするチツプコンベヤー。」

そして、本件発明は、前記事項をその構成に欠くことができない事項としていることにより、工作機械から排出されるチップは、工作機械の下部に設けられたチップ送出樋内へ落下し、スクレーパーにより押送されチップ排出口から排出されるが、この際チップはテップ送出樋内へ確実に落下して外万へ逸脱することがなく、チェンおよひスクレーパーの戻りの行程が不用のため効率的であり、コンベヤーの機体は、工作機械の下部にコンパクトに装設することができるとともに、コンペヤーラインのレイアウトの変更が容易で、コンペヤーの補修、点検も容易に行うことができ、また、スクレーパーは、塊状のチップにより強い抵抗を受けてもこれを棄り越えて進行し、チェンの進行を阻害したり駆動装置を損傷したりする虞れがない、という効果を奏ずるものである(明細書第3頁第2行ないし第16行)。

〔請求人の主張〕

これに対し、請求人は、本件発明は、本件発明に係る特許出願前に国内において頒布された刊行物に記載された発明、または当業者が本件発明に係る特許出願前に国内において頒布された刊行物に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができた発明であるから、本件特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものであり、無効とすべきものである、旨主張し、これを立証するため、証拠として甲第2号証(特開昭50-58782号公報)、甲第3号証(特公昭42-18544号公報)および甲第4号証(実開昭49-27884号公報)を挙示している。

〔被請求人の反論〕

請求人の主張に対し、被請求人は、本件発明は、請求人が挙示した前記甲各号証に記載されているいずれの発明ともその目的、構成および効果において相違しており、甲各号証に記載されたいずれの発明とも同一ではなく、また当業者が甲各号証に記載された発明に基づいて谷易に発明をすることができた発明でもないから、本件特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものではない、旨反論している。

〔甲第2考証に記載された発明〕

ところで、本件発明に係る特許出願前に国内において頒布された刊行物であると認められる甲第2号証(特開昭50-58782号公報)には、以下の発明が記載されている。

「チェン(無端チェーン9として示されている。)の駆動によりチップを掻き出す多数個のスクレーパー(スクレーパー21として示されている。)をも擺動自在に関着したエンドレスのチェンを条内する懸吊レール(懸吊レール12として示されている。)を工作機械の下部に設けた所望形状を成すチップ送出樋(機函1として示されている。)の側壁の上部に横架した梁材(梁材10として示されている。)に固定し、該送出樋の底部適所にチップ排出口(チップ落下口6として示されている。)を設けると共に必要に応じ送出樋の上部適所に覆蓋を設け、前記チェンは、駆動スプロケット(駆動スプロケット7として示されている。)と従動スプロケット(従動スプロケット8として示されている。)とに無端状に巷き掛けられ、チェンが駆動スプロケットから従動スプロケットへ向けて進行する行程と、従動スプロケットから駆動スプロケットへ向けて進行する行程とが、チェン及びスクレーパーが絶えずチップを押送する方向に進行することによって、同時に互いに異質のチップを送出することができるようにしたことを特徴とするチップコンベヤー。」

〔発明の対比〕

そこで、本件発明と甲第2号証に記載された発明とを対比すると、両者は以下の事項について一致している。

「チェンの駆動によりチップを掻き出す多数個のスクレーパーを擺動自在に関着したエンドレスのチェンを案内する懸吊レールを工作機械の下部に設けた所望形状を成すチップ送出樋の側望を利用して支持し、該送出樋の底部適所にチップ排出口を設けると共に必要に応じ送出樋の上部適所に覆蓋を設け、チェン及びスクレーパーが絶えずチップを押送する方向に進行するようにしたことを特徴とするチップコンベヤー。」

しかしながら、本件発明と甲第2号証に記載された発明とは、以下の事項について相違している。

相違点(1)

本件発明においては、懸吊レールをチップ送出樋の側壁に固定しているのに対し、甲第2号証に記載された発明においては、懸吊レールをチップ送出樋の側壁の上部に横架した梁材に固定している。

相違点(2)

本件発明においては、チェンの戻りの行程を省略しているのに対し、甲第2考証に記載された発明においては、チェンが駆動スプロケットと従動スプロケットとに無端伏に巻き掛けられ、チェンが駆動スプロケットから従動スプロケットへ向けて進行する行程と、従動スプロケットから駆動スプロケットへ向けて進行する行程とが、同時に互いに異質のチップを送出することができるようにしており、その際には、一方の行程から見れば、他方の行程はチェンの戻りの行程となっている。

〔当審の判断〕

(相違点(1)について)

さて、懸吊レールはチェンをチップ送出樋に沿って案内するためのものであるから、この懸吊レールを支持するに際し、チップ送出樋に沿って形成されたチップ送出樋の側壁を利用して懸吊レールを支持することは、当業者であれば極く自然に着想し得ることである。甲第2号証に記載された発明において、懸吊レールをチップ送山樋の側壁の上部に横架した梁材に固定しているのは、チェンが複列のスクレーパーを左石対称に支持していることによる構造上の理由に基づくものにほかならない。

したがって、懸吊レールを、チップ送出樋の側壁に固定するか、あるいはチップ送出樋の側壁の上部に横架した梁材に固定するかは、当業者がチップ送出樋の構造に応じて随意に採択し得る設計上の事項にすぎない。

(相違点(2)について)

甲第2号証に記載された発明において、駆動スプロケットと従動スプロケットとの間でチェンが進行する工程のうち、一方の工程がチップを送出している間は、他方の工程は一方の工程が送出するチップとは異質のチップを送出することにより、チップを送出することのない無駄な戻り工程を無くし、そうすることによってチェンおよびスクレーパーを効率良く進行させるという点では、本件発明と軌を一にするものである。

そして、甲第2号証に記載された発明において、チェンが駆動スプロケットから従動スプロケットへ向けて進行する行程の部分と、従動スプロケットから駆動スプロケットへ向けて進行ずる行程の部分との間に、互いに異質のチップを送出するための構造上の格別の差異があるというものではないから、両行程において共に同質のチップを送出することも構造上は可能であって、当業者であれば、この点に着眼することに格別の困難が伴うとは言い難い。

したがって、柏違点(2)に係る本件発明の構成には、格別の創意は認められない。

(総合判断)

以上を総合して判断すると、本件発明は、当業者が甲第2号証に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものである、と言うことができ、特許法第29条第2項の規定により、本件発明については特許を受けることができず、本件特許は、同項の規定に違反してされたものである。

よって、結論のとおり審決する。

平成3年12月5日

審判長 特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

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